DSA1909-02
ミサイル(誘導兵器)に関し必要とする基礎知識(レジュメ)
令和元年9月10日
防衛アナリスト 坂上 芳洋
趣旨
本資料は、ミサイル(誘導兵器)分野に関わったことがないが、職務として又安全保障を理解しようとする方々の参考とするためまとめたものである。添付する情報と併せて理解されることを進言する。(一部は公刊の資料から引用している。)
I. 背景となる基本概念
1. 人類の生存と進化の根源(私見)
(1) 人類の起源
猿から進化したとする論が一般に流布している。種は同一と考えるが、突然変異で別れたとする方が理解できる。宇宙人が祖先であるとする考えは科学的ではない。
(2) 他生物と異なり急速に進歩した背景
次の条件を満たしたため進歩したと考えられる。
l 二足歩行
l 大脳皮質の発達
l 種族保存本能(人間以外の動物と共通)
l 環境順応性(人間以外の動物と共通)
l 言語・文字・記録(動物は高等ではない)
l 生存競争(家族、グループの形成)(人間以外の動物と共通)
l 宗教心
l 創造性・探求心旺盛
2. 狩りと戦いの道具としての武器
l 狩りと戦いの道具
生存と食の必要の狩りから、始めはこん棒のような個人装具、遠隔の動
物を狩るための弓などが生み出された。もちろん生存競争のため、これらが
武器として用いられたのは必然である。
l 火薬の登場と戦いでの利用
中国の唐代(618年 - 907年)に書かれた「真元妙道要路」には硝石・硫黄・炭を混ぜると燃焼や爆発を起こしやすいことが記述されており、既にこの頃には黒色火薬が発明されていた可能性がある。 これは不老長寿の薬を調合している時に発見したとされている。1250年代、モンゴル帝国がイラン侵攻した際、中国人技術者が操作する投石機で、火薬弾が投げられている。 1288年当時の青銅製の銃身が発掘されたことで、モンゴル支配下の中国が火槍から銃へ装備を変えたことが明らかになり、さらにこれまで銃は西欧発明と考えられてきたが、銃はモンゴル帝国を通じて、ヨーロッパへ伝わったとされる。1326年のスウェーデンにおける壷型の銃も発見されているが、これはモンゴル帝国に支配されていた南ロシアから伝わった銃が変形したものと考えられている。同1326年にはフィレンツェで大砲が開発され、以後、ヨーロッパでは大砲が発達する。イベリア半島では1330年代までには銃だけでなく大砲も使用されていた。
l 冶金技術の発達
銃砲と火薬に鉄を精製する冶金技術で武器の性能が著しく向上した。
3. 戦争の必然性と武器の進化
l 人間と動物の違い
動物は個とグループによる生存競争のための闘争はあるものの大量殺りくは極めてまれであり、人間のように欲と憎しみの対象を大量殺りくすることはない。
l 個人闘争から戦争へ
個から家族そしてグループ、国へと社会性を拡大する人間が欲望に起因する喧嘩から闘争への拡大するのは必然である。リーダーを有する部族、国が属する個をかりたてて闘争する戦争へと移行する。
l 戦争を誘引する原因
次の誘因が考えられる。
① 生存のための食糧、資源、領土の奪取
② 国家、政権に対する不満
③ 異民族、異宗教の対立排除
④ 侵略に対する覇権国との対立
⑤ 報復
⑥ 経済的包囲の排除
l 戦争の形態の変化と武器の進化
① 一般的傾向
第2次世界大戦後、経済の発達と核兵器の保有により国家総力戦という
全体戦争は起きていないが、上記誘引の何れかの理由による国際法でい
う戦争とはならないテロ行為とそれに対する制裁とIT化に伴い、サイバ
ー攻撃を対象国に仕掛けるサイバー戦が主流になっている。また宇宙、海
中を戦場とする従来の戦争の場が電脳を含め極めて広大になり、情報戦・
諜報戦が基本となる。
② 武器の進化
大量殺りくと我の安全と必中を期すことが求められ第2次世界大戦後の武器の進化の方向は、次のとおりである。
あらゆるエネルギー(火薬、生物、電磁波、光線、超高速弾頭、毒物、化学物、サイバー、心理、気象管制等)を遠距離まで短時間に届けること、大量破壊殺りくができること、必中を期すこと、対象国が対抗手段を早期に講じられないこと、我が方への報復が瞬時にできないことを目途として開発進化中である。なお、エネルギーを運搬するビークルが無人飛翔体、水上艦艇、潜水艦、戦闘車両、宇宙周回、静止衛星等と多岐にわたっている。なお、技術的に先進国でなくてもある程度の技術と投資で有効な武器が好まれるがこれがロケット兵器、ミサイル兵器である。
II.武器としてのミサイル
1. ミサイルの起源
遠くは、木製の建築物や船舶、陣地を焼き払うのに威力を発揮する火矢は広く
世界で使われてきた。2次世界大戦時の特攻兵器「桜花」を人間ミサイルとす
る意見もあるが、なんといってもドイツが英国の攻撃に用いたV1, V2が現在
のミサイルの原点である。大戦後、開発関係者が当時のソ連と、アメリカに渡
り、これらのメンバーが現在のミサイルの基礎をもたらした。
2.ミサイルの定義(抜粋)(ブリタニカ)
一般に飛翔体,弾丸など飛び道具をいうが,現在は誘導弾 (飛翔体)
guided missileをいう。また誘導兵器と同様に水中誘導兵器および無誘導
のロケットを含む場合もある。推進装置には多くの場合,ロケットエンジ
ンが用いられるが,ジェットエンジンで推進され,飛行機と同様に飛行す
る有翼ミサイルもある。主として第2次世界大戦中ドイツで発達し,戦後
急速に進歩し現在ではあらゆる戦争様相,すべての戦闘場面における主兵
器となりつつある。
3. 何故人類はミサイルを持つのか
ミサイルと名の付く武器を有する国は100か国以上、後述する弾道ミサイ
(大気圏の内外を弾道を描いて飛ぶ対地ミサイルのこと。弾道弾とも呼ばれ
る。弾道ミサイルは最初の数分の間に加速し、その後慣性によって、弾道飛行と呼ばれている軌道を通過し、目標に到達する。)は、30か国に上っている。何故ミサイルを保有するのか;
l 費用対効果性が大
l 弾道ミサイルと対抗する迎撃ミサイル以外は高度な技術を要することなく開発できる。
l ミサイル技術を外貨獲得の道具として拡散している。
4. ミサイルの分類・誘導方式・弾頭
l ミサイルの分類(派生も含む)
① 戦術ミサイルと戦略ミサイル
② 弾道ミサイル
射程等による分類
短距離弾道弾(SRMM):800km以下
中距離弾道弾(MRBM):800~1600km
準中距離弾道弾(IRBM):2000~6000km
大陸間弾道弾(ICBM):6400km~
潜水艦発射弾道ミサイル
対艦弾道弾
③ 巡航ミサイル
攻撃対象等による分類
対艦巡航ミサイル(ASCM)
対地巡航ミサイル(ALCM)
極超音速巡航ミサイル
④ 空対空ミサイル
⑤ 空対地ミサイル
⑥ 地対空ミサイル
⑦ 地対地ミサイル
⑧ 艦対艦ミサイル
⑨ 地対艦ミサイル
⑩ 空対艦ミサイル
⑪ 艦対空ミサイル
⑫ 対戦車ミサイル
⑬ 弾道弾迎撃ミサイル
⑭ 対衛星ミサイル
⑮ 誘導爆弾
⑯ 誘導砲弾
⑰ 滑空弾
l 誘導方式
① 有線誘導
② レーザー誘導
③ 指令誘導とホーミング誘導(アクテブホーミング、セミアクテブホーミング、IRホーミング)及び組み合わせ
④ 画像誘導
⑤ GPS誘導
⑥ 慣性誘導
⑦ 地形照合誘導
l 推進方式
① 液体燃料ロケット
② 個体燃料ロケット
③ ジェットエンジン
④ ターボジェットエンジン
⑤ ラムジェットエンジン
⑥ パルスジェットエンジン
⑦ ダクテッドロケットエンジン
l 弾頭
① 榴弾
② 対戦車榴弾
③ 自己鍛造弾
④ クラスター弾
⑤ サーモバリック弾
⑥ リサリテーエンハンサー弾
⑦ 化学弾頭
⑧ 生物弾頭
⑨ EMP弾頭
⑩ 核弾頭
⑪ KKV(Kinetic Kill Vehicle)弾*参考画像1
⑫ HGV(Hypersonic Glide Vehicle) 弾*参考画像2
III. 我が国へのミサイル脅威と対処
1. 近隣諸国の特に注意するミサイル脅威
l ロシア
① 極超音速巡航ミサイル
② 中距離弾道弾
③ 潜水艦発射弾道ミサイル
l 中国
① 中距離弾道弾
② 航空機発射巡航ミサイル
③ 極超音速滑空弾
④ 潜水艦発射弾道ミサイル
l 北朝鮮
① 中距離弾道弾
② EMP攻撃弾道弾
③ Depressed弾道とManeuver弾道の中距離弾道弾への早期適用
④ 潜水艦発射弾道ミサイル
l 韓国
① 地対地長距離巡航ミサイル
② 垂直発射型ミサイル発射装置を装備した潜水艦
2. ミサイルを含む飛翔体武器の急激な進化
l 極超音速巡航ミサイルの実用化
l 極超音速滑空弾の実用化
l 巨大な核弾頭の採用
3. ミサイル防衛の概要
添付資料による。
IV. 我が国は何をしなければならないか
1. 政府・防衛省
近隣諸国の脅威に対抗する防衛力整備
2. シンクタンク
政府・防衛省の指導と確認
3. マスコミ
ポピュリズムに陥ることなく現状を正確に伝え国民を感化し、政府・防衛省を導く。
V. 緊要な課題
1. イージス・アショアの適正化
添付資料による。特に今年の入ってからの北朝鮮のSRBM発射による技術
進展を確認し、次を確実に実施するよう国民運動を起こす必要がある。詳細
は添付資料参照。
① 製造もしていないレーダーLMSSRの採用をやめ、AN/SPY-6に変更する。
② 弾道ミサイル迎撃能力のみの現状を打破し、自己防衛と対巡航ミサイル対処可能なミサイル発射機能を付加する。
③ 最新のソフトウェアへの変更を実施する。
④ 迎撃ミサイル発射機をイージス艦と同程度とする。
⑤ 配備基地を再度検討変更する。
2.適切な防衛力整備
3. 専守防衛力行使の法整備と可能解釈の内外への明示
4. 日米同盟の維持向上とSLOC周辺諸国との実質的な集団安全保障を目指す
経済協力を基盤とする緩やかな安全保障体制の構築
VI. 我が国の生存と繁栄の根底
我が国の地理的、国土、国民の歴史環境に基づく性格の特徴から次を堅持し、生存と繁栄を促す。
l 工商国家として経済成長率毎次約1.5%以上の継続維持
l 安定的エネルギーの確保(再生エネルギーに指向、超小型発電原子炉の開発配備)
l 食料の自給率の向上約60%程度を目指し、友好国に共同食料生産を推進
l 水産資源の安定的確保
l 海底資源の効率的採掘
l 若年層の勉学意欲の向上助長(モノつくり、先端技術、先端IT技術等)
l 海外留学の奨励と留学生の積極的受け入れ
l 海外労働力の受け入れ
l 成長率維持による社会保障の充実
l 高齢者雇用と経験技術伝達の推進
l 日本の国民性と文化の発信努力
参考画像1
参考画像2