懲りない防衛省、

中止となったイージスアショアSPY-7復活は前代未聞の愚策

イージス・アショアの代替はこれだ!(改訂版)

令和2年9月30日

理事長 坂上 芳洋

―趣旨―

本提案は、「敵のミサイル基地などを直接攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有の是非とあわせ、陸上イージスの代替策についても年内に結論を得るとして、最終決定を次の政権に委ねる。」との安倍前首相の談話に基づき提案者の海上自衛隊の装備体系、部隊運用、ミサイル防衛及勇退後のミサイル防衛への関与と経験から紙面を借りて国民の皆様に提案するものである。なお、本提案は、特定の組織及び企業を利するものではなく、またいたずらに脅威をあおり、外交関係を不安定にする意図ではなく、国の安全と繁栄を維持向上するために一個人の立場からの提案である。

―背景―

本年6月16日河野前防衛大臣が陸上配備型イージス・システム(以後「イージス・アショア」)の配備計画停止を発表、6月19日の安全保障会議で政府は、「イージス・アショア」の調達・配備を中止した。河野前防衛大臣の英断には心から敬服する。現代ビジネスに2度掲載の機会を得て当初から「イージス・アショア」のシステム構成品選択が恣意的で防衛装備としてふさわしくないと述べてきた筆者として非常に喜ばしい。メディアの報道は、中止に至るまでの世論への伝達が後押しの力となった事も否めないところである。

一部の自民党国防族議員から①北朝鮮の脅威は依然として存在し、北朝鮮に付け入る機会を与える。②敵地攻撃能力の獲得が急務である。③SPY-7を海自イージス艦の更新用に採用せよと。の三点に対する評価を含め、現在及び将来(約5年~10年先)の周辺諸国が我が国に影響を及ぼす安全保障上の問題と我が国の対応策を考え、メディアが防衛省内局官僚の自民党国防部会へのイージス・アショア中止後の代替案説明に関する報道に関連して、イージス・アショア中止後のミサイル防衛に焦点をあて我が国の安全保障の在り方を提案する。

―米国のイージス・アショアの状況と日本の対応―

まず、最近報じられた米国のイージス・アショアについて紹介したい。米インド太平洋軍司令官フィル・デイビッドソン海軍大将は、本年3月連邦議会にグアムのミサイル防衛体制は現迎撃体制では欠落しており、中国からの弾道ミサイル及び巡航ミサイル脅威からグアムを防衛するため2026年までSPY-6を主レーダーとするイージス・アショアの設置を連邦議会に助言した。ミサイル防衛庁からの反論もないことから米国のイージス。アショアはSPY-7でなく、SPY-6で装備されることになる。これはロッキード・マーチン社が自社のURLでイージス・アショアは水上艦システムと同じシステム構成となると述べていることを立証するものである。

AESA技術によるBMDレーダーは、友好国への導入はFMSのみと規定している国防省の規定に従わずDCS(一般輸入)としたことは、技術更新、維持整備に関し米国政府の支援が得られず全て日本政府の責任になること、それにもましてSPY-6は、LRDRの技術を根拠とするが実績がなく構想レベルである事を認識しなければならない。

この状況でも、イージス・アショアはSM-3のブースターの問題でありレーダーには全く問題がなく、SPY-7及び当初計画したシステムを採用しようとする報道から防衛省が代替案として陸上ではなく海上配備案としてSPY-7を含む当初のシステムを代替案として主張する防衛省案を厳に止めさせ、性能向上型イージス艦の建造運用に踏み切らねばならない。

―メディア報道に対する所見と筆者の提案―

9月中旬からメディアは、イージス・アショア代替案を続々と報道した。防衛省は陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策について、レーダーやシステムを洋上に置く方針をまとめた。具体的には、護衛艦型、民間の大型船型、油井を掘るやぐら(オイルリグ)型のいずれかを「移動式の洋上プラットフォーム」とする案である。これは、イージス・アショア事業の中止を第1弾ロケットモーターの基地外落下によることし、イージス・アショアを海岸線から出せばいいとするだけで、真の中止理由(①構想レベルのレーダーを一般輸入による導入、②迎撃ミサイルの限定による低高度飛翔弾道ミサイルが迎撃できない既に陳腐化したシステム、③IAMD機能の欠落、④一世代前のイージス武器システムソフトウェア、⑤レーダーの一般輸入による技術更新、維持整備が全て日本政府による負担とソフトウェア更新、IAMD機能付加のために経費高騰、⑥独自システムであることによる日米運用の共用性の欠落等)を見極めない運用を考慮しない単純な提案である。問題点を述べると;


l BMD単能艦(船)

メガフロート及びオイルリグは問題外としても単能艦(船)に焦点をあてると、経費削減及び海上隊員の定員問題及び負担増を軽減する事ができると言い、運航を海自隊員、BMDシステムの運用を陸自隊員にさせる意図と聞くが、商船仕様も護衛艦仕様も、自己防御機能がなく残存性が極めて困難であり、防御は沿岸から防護するとしているが軍事的合理性を欠いた案である。また、システムの運用を陸自隊員にさせると言うが専門職種でないと実現不可能である。とにかくこの案は、日本独自の発想であり、BMD単能艦(船)の設計、ぎ装、諸試験、運用等すべてが日本政府の手で行う必要があり、防衛省は「何かあれば米国(ミサイル防衛庁)と調整して計画する。」としており全く実現が見込めない。何故の防衛省は既に育って経験を有する専門家の意見を聞かないで机上の空論を推し進めるのか何らかの力が働いているのではと疑わざるを得ない。報道によれは洋上BMD単能艦(船)に関しては、米国ミサイル防衛庁の担当者レベルも合理性のない計画であると批判していると聞く。


l システム構成と期待性能

初期計画のイージス・アショアをそのまま洋上に移す案であるが、先ずレーダーSPY-7は、プロトタイプとしても完成しておらず、SPY-7は、艦搭載の実績が皆無であるとともに迎撃ミサイルの中間誘導機能を有していない。採用すれば既述のとおり山積する問題点、経費の言い値に対する支払い、一般輸入による技術更新、維持整備に米国政府の支援が全く得られなく、現状・将来の脅威に対応することができない陳腐化してシステムを抱えることになる。防衛省は未だSPY-6は開発中と説明しているが、SPY-6については、軍は既に数十基の契約をしており、SPY-6運用1番艦がぎ装完了中である事、また、カウアイ島のPMRF(太平洋ミサイル試験設備)ARDEL(高性能レーダー開発評価研究所)での各種試験が完了していることを無視している。


イージス武器システムソフトウェアであるが、ベースライン9を想定しているようであり、防衛省の説明では、米海軍の新型イージス駆逐艦のベースライン10との違いは連接するレーダー(ベースライン10はSPY-6、防衛省が提案するベースライン9はSPY-7)でありソフトウェアの能力は同じと説明している。ベースライン10はもちろん米海軍のAMDR競争で採用されたSPY-6を連接するのみならず、水上目標から、弾道ミサイルまで将来の進展する脅威に対する能力及び同時多数飛来脅威に対する能力を有すること、IAMD機能に対応する事を言及しないで連接レーダーの違いだけであるとする虚偽には調査不足も甚だしい。製造企業のロッキード・マーチン社がSPY-7を復活させる為に主張しているのであろうか。次に迎撃ミサイルは、SM-3 block IIAの射撃機能のみであり、大気圏飛行低高度弾道ミサイルに対処できない事、SM-6発射機能を削除しているので巡航ミサイルに対処できない。もちろん極超音速巡航ミサイル及び極超音速滑空弾に対処できない。


l IAMD(統合対空ミサイル防衛)機能

IAMD機能がなく海空自衛隊との協同及び米軍兵力との共同ができない。IAMDは、武力行使の一体化につながり、憲法違反になる恐れもあるとする考えを防衛省は有すると聞くが、極論すぎる。そもそもミサイル防衛は日米共同によるものであり、ROEを定めて策戦遂行すれば憲法違反云々は発生しない。

これを要するに低コストと当面の海自負担の軽減を狙って中止となったイージス・アショアを陸上がだめなら単に洋上に移して復帰させようとする意図だけを主張するものである。日米間の運用の共用性を維持できない費用対効果の全くない軍事的合理性を欠いた防衛力整備と言わざるを得ない。これが制服組からも提案されたとすれば忖度以外何物でもない。実に残念である。実効性のある代替案は、優先順序に従い次のとおり提案できる。


l 現有イージス艦のレーダー、ソフトウェアの更新

既就役の「こんごう」型及び「あたご」型イージス護衛艦の定期検査時期にあわせ、SPY-1DレーダーをSPY-6レーダーに換装し、併せてイージス武器システムのソフトウェアを米海軍Flight IIDDGと同機能へ変更する。


l イージス艦、海自主力艦及び空自早期警戒機へのIAMD機能の付加

上記に併せ、IAMD機能を付加する。


l イージス艦の増勢

ミサイル防衛に拘置するイージス艦から現有隻数では運用が困難である。ミサイル防衛以外の水上部隊の防空任務遂行からイージス艦の隻数が不足している。概要は、日本海において2ポイントBMD哨戒を継続、各護衛隊群に1隻のイージス艦を配備運用するため更に最低限4隻のイージス艦を建造運用する。要求性能は米海軍Flight III DDGと同じとする。2機の哨戒ヘリ搭載可能とし、経費は、1隻あたり約1,400億円、当面2隻約2800億円と見積もる。


l 陸上配備分散移動型BMD部隊の創設運用

イージス・アショアの中止に伴う問題の解決の必要からでる案である。解決のポイントとは、残存性の向上、大気圏内飛翔弾道ミサイル対処能力の確保、海上部隊との協同・共同並びに補完、実績技術の活用、経費の圧縮、陸海空自衛隊の統合運用である。概要は、配備を基本的に日本海沿岸とし、鉄路又は装輪走行車移動とする移動型とする。構成はレーダー(SPY-6)、垂直ミサイル発射装置(MK41VLS 16セル)、射撃指揮装置、通信装置、電源装置とし全て移動可能とする。迎撃ミサイルはSM-3 Block IIA, IA, SM-6及び自己防御ESSMの混載とする。2個BMD部隊を整備する。1個BMD部隊は2個BMD部隊で当初のイージス・アショアの経費より抑える事が可能であろう。


l 極超音速滑空弾・超音速巡航ミサイルへの対応

「各国は従来のミサイル防衛システムを突破するようなゲームチェンジャーとなりうる新しいタイプのミサイルの開発を進めている」。自民党の提言はこう指摘し、中国とロシアは音速の5倍超で飛ぶ極超音速滑空ミサイルの開発を進め、北朝鮮は低空で変則的な軌道を描く新型ミサイルの実験を行っていることを説明。防衛省幹部は「陸上イージスを配備しても、新型ミサイルの迎撃は極めて難しかった」これは当然わかっていることであり、泣き言を言って逃げる事は許されない。

極超音速滑空弾、巡航ミサイルへの対処案は、極超音速ミサイル防衛(Hypersonic Missile Defense)の日米共同研究・配備」である。理由は、中国、ロシアが運用する極超音速巡航ミサイル及び滑空弾は日米共対処が出来ない現状である。その概要は、

① 極超音速ミサイル防衛は、現在米海軍が開発中であり、日米共通の脅威として共同研究を申し入れる。迎撃ミサイルはMK41VLSから発射可能としているのでEngage on Remoteモードで迎撃する体制とする。硫黄島にSPY-6のレーダモジュールを増勢したAEW兼を中間誘導機能兼ねた構成とすれば完結した防衛を構築できる。

② PAC-2GEMに高性能VT信管を装備して巡航ミサイルの終末段階で対処する。

③ 指向性エネルギー兵器を開発し、終末段階で対処する。

④ 電磁砲を開発し、終末段階で対処する。

技術的裏付け及び努力指向は、極超音速ミサイル防衛:米海軍の予算計上からほぼ同額20億円を予定する。極超音速ミサイル対応高性能VT信管:日本の技術の粋を結集する。PAC-2GEM:現有ミサイルの信管を改造する。指向性エネルギー兵器、電磁砲:独自で開発は可能であるが人と予算の充当が極めて怠慢である。

IAMDとの連携を強化し、新型ミサイルなどの探知・追尾のため、センサーを搭載した数百基の小型の人工衛星を打ち上げ連携させる衛星コンステレーション(監視衛星群)や、無人機の活用も検討するよう促した自民党の提案に関しては、米国の案に追随する必要はなく、我が国が低軌道周回警戒監視衛星の配備・運用すれば良い。理由は、我が国は、独自の24時間継続的に我が国の対象国を監視偵察できる衛星を有していないためこの機能を確保するものである。概要は、低軌道周回超小型監視偵察衛星を打ち上げ配備運用する。軌道高度によるが三十数個配備するため、当面毎月2回、F-15による極軌道方向の空中発射とする。各衛星はセンサーと通信機能を有し、光学センサーには、日本が保有する超分解能技術を適用する。このための超小型衛星、2段ロケット、搭載センサーも技術的問題はない。これにより、我が国独自の宇宙からの警戒監視体制を維持するとともに宇宙事業を活性化できる。北朝鮮の弾道ミサイルは発射台を搭載した車で移動する。事前に発射の兆候をつかむのは極めて難しい。さらにミサイル基地を破壊する攻撃力、標的を正確に捉える精密性、電子戦機などによる防空レーダーの破壊など、敵基地攻撃に必要な能力を日本が備えるには、いずれも技術・予算的に困難だとの防衛省の見解にたいしては、既述した低軌道周回警戒監視衛星の配備・運用で宇宙から24時間SIGINT、COMMINT情報を収集し、状況の変化に応じ偵察機を運用し、我が国独自の情報収集体制を構築する予算に裏付けられた人的、技術的な努力を指向する。最初から逃げてはならない。


最後に、敵地攻撃であるが、「対象国策源地攻撃能力の拘置」ととらえ計画する。理由は、防御に特化すれば優先度を有する対象国の意図通りになるとともに、予算の充当が過大となる。そのための案としては、

l 超音速長距離巡航ミサイルを開発運用する。発射母体は、水上艦、航空機でも可能とするが垂直発射型発射装置を装備する長期間可潜潜水艦である。

l UAV又はF-35による弾道ミサイルのBoost Phaseにおける迎撃する。

l UAV又はF-35の空中発射自律EMP攻撃ビークルによる発射策源地のEMP攻撃を行う。

l 対象国ミサイル発射装置に対するサイバー攻撃を行う。

l 対象国を目標とした弾道ミサイルの開発製造運用計画のブックキーピング。(効果を検討して談話レベルでリリースする。)

l 中距離戦域ミサイルの発射部隊保有の検討。(効果を検討して談話レベルでリリースする。)

l 気象管制技術及び核動力の報復兵器としての検討。(効果を検討して談話レベルでリリースする。)

以上、最適な防衛力整備のため現場の経験を有する制服組の具体的な発案を切に期待する。防衛は、シビリアンコマンドであってはならない。軍事面から専門的に提案する制服組と、政治、外交、財政面から判断するシビリアンの協同作業である。現場経験のないシビリアンによる防衛装備立案実施は亡国を招く。

本稿は、筆者の海上自衛隊現役時代の経験、勇退後の国内外での防衛セミナーの経験並びにシンクタンクの代表理事としての活動に基づく個人的見解であり、文中の何れの企業とも連携していないことを付記する。