DSA 1909-05

北朝鮮の飛翔体発射の評価に基づくイージス・アショア事業の見直し(提案)

令和元年9月20日

防衛アナリスト 坂上 芳洋

1.趣旨

本件は、標記に関して説明者が緊急に提言する内容をまとめたものである。

2.北朝鮮の飛翔体発射の経過と評価

(1) 聯合ニュースの発表

聯合ニュースは、韓国軍及び在韓米軍との共同分析発表であり信頼できる。(以下同じ)

(2) 聯合ニュースの評価

l KN-23と原型となったロシアのイスカンデル-M(Iskander-M:SS-26 Stone)との比較

① 射程の延伸:500kmkから600km

② 低高度飛翔(Depressed):同じ(頂点高50km)

③ 飛翔中の運動:同じ(目標までの間急降下水平、目標へのほぼ垂直ダイブ)

④ 通常弾道(Minimum Energy Trajectory)によるパトリオットミサイルの迎撃を避けるデザインは踏襲

l 迎撃の可能性

共同分析は、KN-23は、SM-3による迎撃範囲には無いこと分析している。

(3) Dr. Uzi Rubin(イスラエルBMDプログラムの父)の評価

l SS-26 Iskanderを原型として射程延伸及び飛翔軌道の可変は、北朝鮮では可能であることを示したが、短期間で実証したので外部からの技術支援があったと考えられるとしている。

l 大気圏内を飛翔するので空気密度が得られ可変運動を容易に可能とするが、高速高温に耐えうるミサイル本堤の耐熱材料およびミサイルの強度を得るための技術は東アジアではロシアと日本のみであるとしている。

l KN-23は、量産態勢に移行できていると考える。

l 他のIRBM/MRBMへの技術移転は短期間で行うことができる。

l イランとの技術交流は継続的に行われている。

(4) 説明者及び米国企業の評価

l KN-23の600kmの射程は、西日本を射程内に収めている。

l 燃料は固体燃料で次発発射は短時間であり、発射はTELで行われ事前の察知が極めて困難である。

l 核弾頭装備の可能性あり。

l SM-3 block IIAは主として大気圏外での迎撃を行うようデザインされており、KN-23の迎撃は極めて困難であると言わざるを得ない。

l 低高度飛翔及び可変運動を行う本ミサイルに対する対抗手段は限られており、対抗手段は、可変運動以前でSM-6及びSM-2による迎撃、ターミナル段階でのPAC-2/PAC-3による迎撃であるが早期探知・追尾が必須である。

l 最大の脅威は、KN-23で検証した技術をIRBM/MRBMに移転した弾道弾が我が国及び米国領土(グアム)を目標とする場合である。

3.我が国の防衛体制に及ぼす影響

(1) 日米共同弾道ミサイル防衛

前項(5) に評価する脅威に対抗するためには、従来のミサイル防衛整備では不十分である。加えてロシア、中国、韓国の長距離巡航ミサイル、中距離弾道ミサイル並びに極超音速巡航ミサイル・滑空弾に対処しなければならない。その要訣は;

l 複合センサー(宇宙センサー、SIGINT、COMMINT、HUMINT、情報収集機等)による早期探知をBMDレーダー及びBMDプラットホームへの目標移換。

l 低高度飛翔体を探知・追尾するためのIAMD(Integrated Air and Missile Defense)網の構築と共同訓練による態勢の維持。

l Terminal以前でのSM-6、SM-2による迎撃。

l Terminal段階でのPAC-3、PAC-2による迎撃。

l 将来;Terminal段階での電磁砲又は指向性エネルギー兵器による迎撃。

(2) イージス・アショア

西日本への脅威であり、東北でのイージス・アショアは未だ準備を完了する必要がないとするのではなく緊要の準備をすべきでありその主要点は;

l 根拠のないLMSSRとの契約前に再度構成品選定作業を実施し、実績のあるSPY-6に変更する。

l 秋田県の新屋陸自駐屯地を見直し、青森県車力空自基地への見直し、又は山口県を第一優先として配備基地を自衛隊基地にこだわるのでは無く適地の買収を検討する。

l イージス・アショアは、公共事業ではなく防衛目的で整備すべし。その能力は;

① BMD対応のみではなく、巡航ミサイル対処機能、自己防御機能を保有する。

② 当初からIAMD機能を確保するための、ソフトウェア(Baseline 10)、CEC機能を確保する。

③ VLSはイージス艦並みの96セルとる。

4.イージス・アショア事業の見直し(具体策)

(1)イージス・アショア事業を可として推進する場合

次表のとおりであるが、米国ミサイル防衛庁と一米企業(ロッキード・マーチン社)の恣意的な進言を絶対可としてはならない。情報不足のため誤った判断をしたと公言することが真に国政を預かる者の責任である。

既に、長島議員が衆議院安全保障委員会に置いて問題点を指摘され再度原点に立ち返って見直せと指摘されているが、役所は問題を認識するものの責任回避のため、新聞、週刊誌、TV、Websiteで米国退役空軍中将も含め正確に問題点を指摘している現実を無視し、令和元年10月にロッキード・マーチン社との契約に持ち込もうとしている。厚顔無恥とはこのことで国民の意見を無視するのも甚だしい。仮に防衛省が国民の意見を無視し当初の計画通りとすれば、次の問題が顕在化し亡国の事業となる事は必至である。

l LMSSRは、構想段階のレーダーであり、デザイン、プトトタイプの製造・諸試験の費用は全て日本政府の負担となる。

l PMRFにLMSSR用のテストサイト設置を米国ミサイル防衛庁から強いられている。(経費見込み約450億円)

l 契約段階から製造に入るので当初計画していた運用開始時期(2025年)から大幅に運用開始が遅れる。

l LMSSRの技術母体となるLRDRは、探知追尾機能のみで迎撃ミサイルの中間誘導機能を有していない。

l LMSSRは、DCS(日本政府が米国企業からの直接調達)となり、以後の維持整備、技術更新はすべて日本政府の責任となり経費の継続的な負担を強いられる。

l LMSSRとSPY-1(将来SPY-6に更新)の2系統の維持管理を要し、日米間の運用の共用性が失われる。

l 現在計画しているイージス・システムのソフトウェア(Baseline 9)では完全なIAMDが実施できない。防衛省は、将来Baseline 10への更新を予定している。

l 現計画のイージス・アショアはBMD迎撃用ミサイルの発射機能に限定しており、自己防御のミサイル(SM-2, ESSM)及び巡航ミサイル対処ミサイル(SM-6)の発射機能を敢えて削除している。軍事的無知としか言いようがない。

l LMSSRを選択することは、①先ず能力が保証できない、②運用開始が遅くなる、③維持整備・技術更新がすべて日本政府の責任、④日米間の運用の共用性が失われる、⑤IAMDの確保が大幅に遅れる、⑥巡航ミサイルの対処機能がない、⑦自己防御のためのPAC-3の配備を必要とする。(中SAMでは対処できない)。

l 総じて1兆円以上の無駄な投資となる。(絶対に無駄を許してはならない)

(2)わが方が優先権を有する抑止兵器を検討する場合

優先度を有する対象国に対し、従来の防衛システムの構築は常に後手に回り巨額の投資を強いられることは明白である。真の顕在化する抑止兵器の整備と運用の意思を示すことが緊要である。候補は、次のとおり。これはイージス・アショア事業と並行し、2年未満の計画で運用開始にこぎつける必要がある。

l 戦術トマホークの導入運用

現在米国以外でトマホークを導入配備している国は英国のみであるが、日本国内の開発の進捗及びリリース要望をすれば導入が認められるものと考える。ただし次の条件が必要である。

① 亜音速ではなく超音速ミサイルであること。

② トマホーク武器システムとVLSとの連接装置のリリースを得ること。

③ 対象目標への地図情報のリリース及び日米共同地図作成体制を構築すること。

④ 当面は、トマホーク搭載可能Mk41VLSを装備するイージス艦のみとなる。

⑤ 潜水艦発射については魚雷発射管またはMk45VLS装備潜水艦による。

l 長距離超音速巡航ミサイルの開発

国産開発を推進する。

5.長島先生のご尽力をお願いする事項

今回の北朝鮮の飛翔体発射とその評価をイージス・アショア適正化の絶好の機会ととらえ自民党議員、新防衛大臣の感化に努められ構成品の再選定作業の実現に貢献いただきたい。その理由は;

l KN-23で実証された低高度飛翔の弾道ミサイルは、SM-3Block IIAでは対処が極めて困難であり、SM-6の発射機能が必須である。もちろんKN-23の技術がMRBMに移管される場合は更に脅威が高くなる。

l このような低高度飛翔、運動を伴う弾道ミサイルは実績のあるSPY-6とするのが至当である。

l また、陸海空、米軍の情報を統合して遅滞のない対処を行うためには当初からIAMD機能を保有しなければならない。そのためにはBaseline10の組み合わせが必須である。

l 切迫した脅威があるときにこれからレーダーを製造するのは愚の骨頂である。

l LMSSRをDCS導入することの経費が膨大に膨らむことを絶対阻止しなければならない。

l 当時の担当大臣には。一生重荷を背負わせることは止めさせるべき。